MPC IMPACT!

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ラップ/ヒップホップの音楽的進化において、様々な機材が関与してきたのは割と知られてますが、その中でもAKAIのMPCシリーズに焦点を当てたドキュメンタリー的な一冊。NYのディスコやサウンドシステムの歴史と、AKAI設立からエレクトロ・ハーモニクスの技術売り込みによるデジタル・サンプラーの登場、さらにはロジャー・リンが売り込みに来て、あの独特の操作感やシーケンサーのフィーリングを持つMPCシリーズが誕生するまでの歴史を、当時のヒップホップクラシックの機材話を絡めながら進むエキサイティングな構成に、首振りながらページをめくります(振らない)。

取材はMPC60開発エンジニアの浦田氏、リン・ドラムを開発して一躍80年代サウンドのトレンドセッターになったロジャー・リン、60年代後半からのロックの音作りに重要なエフェクタージミ・ヘンドリックスと一時代を築いたのちAKAIに肝となるサンプリング技術を提供したエレハモのマイク・マシューズの他、90年代ヒップホップサウンドを決定づけたボブ・パワー、プロデューサーからはマーリー・マール、ピート・ロック、イーヴルD、SKIなどの貴重な証言をふんだんに挟み、個人的にも90年代の熱気がフラッシュバックする。そして終盤にはMPC3000の可能性を最大限に引き出したJディラにまつわるエピソードが最後の輝きを放ち、00年代中盤に入ってからの急速なテクノロジーの進化とヒップホップの音楽的変化により、MPCの黄金時代も終わりを迎える。しかし、今でもMPCのDNAは脈々と受け継がれており、つい最近ではスタンドアローンの新機種、MPC ONEのリリースが発表されたばかり(この本の刊行と絶妙なタイミングでした)。

ちなみに私は1997年にMPC2000が出たと同時に買いました。当時レコードショップで働いていて、日本でも優れたプロデューサー達が台頭してきたのを目の当たりにして、自分もちょいちょい買っていた古いレコードをサンプリングして、あの4×4のパッドを駆使して何かを作りたいという衝動に駆られました(まぁ結局はお遊びレベルに留まりましたが)。まずMPC3000までには無かった波形表示による編集に感動し、ヒップホップクラシック写経(クラシック曲と同じネタをサンプリングして再現を試みる)に挑戦したり、勝手にリミックス作ったりとパッドを叩きながら無限の可能性を手にした気分でした。

今でもひとつの楽器としてのジャンル/存在を確立しており、SNSを見渡せばビートメイキングの大会が催され、フィンガードラムの教則本が出版されたりするのを見ると嬉しくなります。これからも若い才能達がMPCの可能性を超えた使い方を見出し、音楽の作り方をガラリと変える日が来るかもしれません。